Vol.86 葉山芸術祭と歴史的建築物の物語
葉山町は歴史ある避暑地として、皇室はもとより文人、財界人の別邸や邸宅が多く建つ。
また庶民的な古民家や、当時最新の洋風住宅が風情ある小道に沿って点在し、散策する楽しみのひとつである。
一方で、文化財級の建築物を拝見する機会は非常に少ない。
「葉山芸術祭」は今年で27回目を迎える。
神奈川県でもアートイベントの先駆けとなった芸術文化のフェスである。
数多くの企画が期間中至る所で開催される葉山芸術祭だが、
中でも、普段は一般公開されていない歴史的建築物での催しが見逃せない。
加地邸と旧東伏見宮葉山別邸だ。
加地邸
加地邸は、葉山一色の細い路地を抜けると、緑の山腹を背に建っている。
昭和3年に建築家・遠藤新が設計した、三井物産初代ロンドン支店長の加地俊夫の別邸で、
今回「加地邸をひらく」と題して、去る5月5,6日に公開されていた。
建築家・遠藤新は、旧帝国ホテル建設のため来日したフランク・ロイド・ライト(F.L.ライト)のスタッフとして
主要な役割を果たした人物で、その後F.L.ライトが手掛けた建築にすべて携わった。
彼の作品からは、F.L.ライトのプレーリースタイル*を継承した落ち着いた空気感と厳粛さだけでなく、
彼独自の暖かなホスピタリティーに満ちた雰囲気を感じることができる。
(*プレーリースタイル…水平線・地平線を眺めたときの視覚的な広がりとともに大地にどっしりと根を下ろしたよう安心感・安定感を住む人や通りゆく人に与えてくれるデザインが特徴の住宅建築。草原様式とも呼ばれる。)
旧帝国ホテルの威容は、現在も愛知県犬山市の明治村で見ることができる。
そこに多用される建材は大谷石であり、加地邸もまたその独特の雰囲気を周到している。
おそらく不規則とも思える石の積み上げと思いがけない配置で、訪れた者を飽きさせない。
重厚でエキゾチックな面も漂わせつつも、優美で軽やかな雰囲気を感じさせてくれる。
もはや遺跡のような佇まいは、「次はどうなるのだろう?」と人の興味を引き出してくれるかのようだ。
加地邸の内観では、アールデコ調の調度品や唯一無二の家具や照明から、遠藤新ならではの日本的様式美を感じることができる。
葉山で国登録有形文化財に認定され、普段一般公開はしていないから今回の催しは非常に貴重なものである。
個人の民家であるが故にその価値を残す運動は有志に委ねられている。
現在も葉山を愛する人びとからの協力を求めている。
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加地邸
http://kachitei.link/
アクセス:神奈川県三浦郡葉山町一色
敷地面積:1,129.52㎡
構造:木造2階建 (一部地下1階RC造)
設計:遠藤新
竣工:1928年(昭和3年)
延床面積:364.38㎡
※2019/6/14(金)〜7/15(月祝)までの金土日10:00~16:00(最終入場)の期間公開中です。
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東伏見宮葉山別邸
皇族の別荘地として最も早く開かれた葉山は、
その後御用邸以外の施設の大半が失われ、東伏見宮別邸の洋館が唯一現存している。
葉山町向原のバス停から数分、幼稚園の入口奥に、東伏見宮葉山別邸は堂々とした風格で建っている。
当時は約8500坪の広大な敷地に和洋のお屋敷が立ち並んでいたが、現在は約30分の1の敷地に洋館だけが残された。
3階塔屋頭頂まで15メートルという際立つ高さを有し、外観は白色の外壁、寄棟の大屋根など風格がある。
また、欄間や軒飾りは軽快な装飾を施し、繊細で優雅な意匠である。
柱や構造体をそのまま美しく外側に見せる北米風に加えて、
フランスのスタイルを用いた建物は湘南地区の宮様の別邸としては初めての洋館であった。
一階に「御客室」「食堂」二階に「御居間」「御化粧間」と和室を持つ。
大きな窓の広い廊下はサンルームでもあり、晴れた日には相模湾越しに富士山を見ることもできた。
大正3年(1913)に東伏見宮依仁親王の別邸として竣工したこの白亜の洋館は、
イエズス孝女会修道院に譲渡され2回の改修を経て現在に至るが、普段は許可なく立ち入ることは出来ない。
葉山芸術祭では去る5月11,12日、昨年始まった「葉山アート茶会」をこの別邸内で開催し、多くの来場者を迎えた。
日本を代表するインテリアデザイナー・内田繁が1995年に発表したポータブル茶室「行庵」が設えられ、
「山に登る」というテーマでお茶会が開かれた。
一室に設けられた茶室は竹で編まれた風情の庵で、
市中に居ながらも山中で一服をいただくという空間哲学のもと、心の旅を経験出来る。
また邸内の大小の部屋ではチベット仏画の展示も行われ、
明るいテラスでチベットティーをいただけるコーナーがあり、来場者がお茶を楽しんでいた。
今回の参加アーティストは、葉山葉山ART WALKから、
安藤真司、神山豊、佐藤正治、出口雄大、樋口たつの,ブルースオズボーン、真砂秀明、真砂美千代,MARIAはるな、宮地慎吾。
そして村瀬治兵衛、内田繁。
現代アーティストの展示やイベントはどれも興味深い。
建物がすでにクラシカルなアートであるから、作品も展示室も時代を超えてマッチする不思議な空間となっていた。
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東伏見宮葉山別邸
https://www.town.hayama.lg.jp/soshiki/shougaigakushuu/7/1/8389.html
種別 :国登録有形文化財(建造物)
登録年月日:平成29年5月2日
所在地:葉山町堀内1968
構造:木造2階建、銅板葺、建築面積280平方メートル、塔屋付
時代:大正3年/昭和51年・昭和62年改修
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葉山の小道は歩いていて楽しい。
深い緑に囲まれた石塀の向こうには、少し古びた白塗りのお屋敷。その昔を想像して止まない。
大正から昭和のロマンをいまも秘めながら静かに佇んでいる。
海浜はこれから賑やかな季節となるが、
時には木漏れ日の爽やかな路地裏にお屋敷の物語を探す旅もいいものである。
Take a trip to find historic buildings in Hayama.
Yoshifumi,
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「暮らすように滞在する」五感で楽しむ葉山
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