Vol.82 第10回 逗子海岸映画祭2019から 選りすぐりの映画を2本ピックアップ
波打ち際をわたる夜風と波の寄せる音がスクリーンを包み、
我々を架空の世界に誘う。
野外で体験する貴重なひと時。
かってアメリカンドリームとして憧れたドライブインシアターを想起させる。
境界のないオープンエアーな会場で、映像を観る者たちの心がひとつになる瞬間だ。
2019年、第10回 逗子海岸映画祭が決定した。
4/26(金)〜5/6(月)の11日間。"Play with the Earth/地球と遊ぶ"をテーマに、
変わりゆく環境の中で、
変わらずに同じこの逗子で毎年素敵な映画を届けている。
今年も、逗子に心沸き立つシネマフェスがやってくる。
今回のラインナップから、選りすぐりの作品を2つピックアップしてみよう。
「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ アディオス」
監督 ルーシーウォーカー 制作総指揮 ヴィムベンダース
アフロキューバンのエネルギッシュな音の洪水である。
老いも若きも男も女も、猫も犬も。唄い 踊り、飲み、食べる。
人びとは人生を謳歌する。
ギターを弾き、ピアノをたたき、聴衆を魅了するのは老齢なミュージシャン。
彼らの額に刻まれた深いしわには人生の苦しみや喜びがしみ込んでいる。
辛い事はわすれよう、いや、唄っていれば思い出すこともない。
社会主義制、革命、核危機など不穏なイメージが付きまとう国であるが
このドキュメンタリーを観ればそんな言葉を払拭する太陽の大地が現れる。
明朗でストレートな音楽の遺伝子は民衆の細胞の奥深くに宿る。
まさにカリブの海賊も踊りだす、国民的な音楽ルンバ,ソン、抒情的に
歌い上げるボレロ。
当初制作に携わったライクーダーは、アメリカでも屈指のスライドギターの名手である。
アメリカンルーツミュージックを発掘し、様々な土地で地元ミュージシャンと
交流、アルバムを制作している。
ハワイ、メキシコ、ブラジル。各地の音楽を吸収し、
そのエッセンスをオリジナルの楽曲に注ぐ。偉大なプロデューサーと言える。
「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ アディオス」は1999年公開の「ブエナ・ビスタ・
ソシアルクラブ」の続編として注目を集めている。
あの日煌めくスポットライトを浴びたミュージシャンたちの18年後を描いた
最後のコンサート世界ツアーの様子に感動する。生きている者、亡くなった者すべてを
リズムの渦が包み込む。盛大な歓声に古老の音楽家は軽快なステップで答える。
「アスタラビスタ ベイビー!」
平均年齢73歳が奏でるソングが浜辺に流れれば、映画祭はきっとダンスホールに変わるだろう。
「さよなら color」
監督 竹中直人
竹中直人という人は照れ屋さんである。真面目な場面であるほどひとが変わる。
ふざけているようだが、素の自分が恥ずかしいので、誰か他人になり切ってしまう。
これは彼の芸の延長ともいえる。
竹中直人監督が気に入り映画化となった
「スーパーバタードッグ」のバラード、「さよならCOLOR」は彼らのファンキーな
ナンバーとは異質の世界である。
『自分をつらぬくことは
とても勇気がいるよ
だれも一人ぽっちには
なりたくないから』
『でも君はそれでいいの?
夢のつづきはどうしたの
ぼくを忘れてもいいけど
自分はもうはなさないで』
「さよなら color」は、初恋の人との美しく切ないさよならを描いている映画だ。
しかし、私は映画の内容とはべつの感想を抱くのである。
最初この歌を聞いたとき、竹中監督は自分自身への問いかけだと
感じたのではないだろうか。
大学時代からいい意味で異色の存在であり、
友人たちと楽しく過ごすより一人もくもくとフィルム制作に
精を出すという学生時代であったように思える。
デザイン学科だが映像作家を目指していたようだ。
だが、成功してからは芸人、俳優、監督として個性派、の道を歩んできた。
本当はロマンチックな人間なのに、優しい恋のせりふも言いたいのに。
もう一人の竹中直人が茶化し、おどけてしまう。
そして、この曲を知った時、映画のなかで思い切り切ないロマンスを語ろうと
初恋 憧れ 死 友情 などと真正面から向き合うことになる。
「シリアスなものを演じることに恥ずかしさがありました。
ふざけている俳優になりたいというか、シリアスな演技をして褒められることに
照れがあったというか。この先、役者としてどうなっていくかという
漠然とした不安がある中での出演だったので、僕にとっても大きな挑戦でした。」
と、ある映画出演の折、俳優かけだしの頃こう語っている。
『さよならから始まることが
たくさんあるんだよ
本当のことが見えてるなら
その思いを捨てないで』
何を犠牲にしてもいい。
胸が苦しくなるほど いとおしい気持ちは、
強い想いは・・たとえ先は見えなくとも相手に伝えなければならない。
それは波動砲みたいじゃなく、
幾億回、穏やかに寄せる波のように届けつづければ、
心はやがて堅結びとなってほどけることはない。
今あなたが、誰かと手をつないでこの映画を観ているならば。きっと
少し強く力をいれてしまう。「さよなら COLOR」はそんな映画だろう。
さて、夕闇がせまり浦風そよぐ会場に輝く銀幕で物語が始まる。
少し早い「真夏の夜の夢」が皆さんをわくわくの世界に誘うはずだ。
■第10回 逗子海岸映画祭2019
https://zushifilm.com/
Address : 〒249-0007 神奈川県逗子市新宿1丁目4 国道 134 号線
Schedule :4/26(Fri)〜5/6(Mon)
※当記事で使用している映画祭の写真は、昨年(2018年)撮影のものとなります。
We will be fascinated by various cinema in Zushi beach.
Yoshifumi
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